この記事は、前貸金を賃金から天引きすることは違法か否かについて述べていく記事です。
✔ 本記事のテーマ
【違法】前貸金を賃金から天引き(法的な観点)
前貸金とは
近能 弘章
ここでは、「前貸金」を賃金支払日より前に賃金の一部を支払うことと定義します。
事業主は、労働契約書や就業規則に定められている「賃金支払日」より前に賃金の一部を従業員に支払う義務を負っていません。当然、従業員が労働をしていない分の給料を払う義務は、事業主にはありません。
しかし、既に労働した分の給与については、労働基準法25条で例外規定が設けられています。出産、災害、疾病等の従業員が急を要する正当な理由がある場合には、事業主は従業員に労働をした分の給与を支払日前であっても支払わなければならないとされています。
ただし、基本的には、事業主は賃金支払日前に賃金を従業員に支払う義務はないものとして考えて良いでしょう。
労働基準法と民法
この「前貸金」については、労働基準法を超えて民法の領域まで達する事案と言え、複雑な事案であるといえるでしょう。
依然として天引きは違法
前貸金を支払う必要は、事業主にはありませんが、前貸金を給与から天引きすることは労働基準法17条に違反します。
労働基準法第17条では、「使用者は、前貸金その他労働をすることを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。」と規定しています。
前貸金をする場合の契約書
事業主が従業員に前貸をした場合、労基法上では事業主の救済が困難であるように思えます。したがって、前貸金の事案については、事業主は民法上の救済に頼るべきであると私は考えます。つまり、金銭消費貸借契約書を取り交わすことが無難であると思います。
民法587条では、「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じものをもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受取ることによって、その効力を生ずる。」と規定しています。
まとめ
今回の記事では、前貸金を賃金から天引きすることは違法か否かについて執筆をしました。
前貸金を給与から控除することは労基法上違法であることから、事業主は民法上の救済に頼る方策を執るべきであることを述べました。
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