【学問】憲法②(法学)

学問

 観客等寄せられた声を理由に、X市はY芸術団の公演を中止した。当該仮説に関する憲法上の問題点はどのようなものか。この問いを本論の指針とし、論点に関する判例および学説の立場を確認し、本論を展開することで問いを明らかにしていく。

 

本論

 X市がY芸術団の公演を中止するなど、国が国民の表現の自由を一定程度制限することは憲法上可能なのか。この問題点を論点にして本論を述べていく。

第1 学説

 平和主義に対しての思想など人の内面の精神活動は、外部に表明し他者に伝達されてはじめて社会に対して意味を持つ。その意味では、表現の自由は数ある精神的自由の中でもとくに重要な人権である。表現の自由は、裁判所に求められる保護の要請度合いが経済的自由に比べて高い権利とされ、安易に表現の自由を規制することはできない種類のものである。

 一方、表現の自由は無制限というわけではない。表現という行為が他者に対して行われる性質を持つ以上、他者の権利等の関係から表現の自由の制限範囲が存在する。

第2 判例

 富山県立美術館事件(2000年.名古屋高裁金沢支部判決)では、天皇の写真をコラージュした作品が議会で問題視され、美術館はいったん購入や展示した作品の非公開を決めた。これに対し裁判所は、「公の施設」である観覧の拒絶には正当な理由が必要と述べた。一方、裁判所は「管理運営上の支障を生じる蓋然性」があれば広く正当な理由が認められる立場をとった。その上で、「執拗な抗議等」が起きていたことを重く見て、「平穏で静寂な館内環境を維持するため」などとして非公開措置を適法と認めている。公的な場所であっても予算やスペースは限られているため、場所利用を拒むことについては一定の裁量があるが、一度公開したものについては話が変わってくる。

 場所利用を拒むことについての理由がストレートに著者の思想・信条への否定的評価では難しい。、船橋市西図書館事件(最高裁2005年判決)では、司書が「新しい歴史教科書をつくる会」メンバーの著書など107冊を廃棄した事件で、違法と判断されている。裁判所は、公立図書館でいったん公開された以上著者には一定の法的利益があるという立場を取っている。

 表現の不自由展かんさい事件(2021年大阪地裁判決)とは、展示内容に対し不満を持つ人たちが抗議の電話や街頭演説、街宣活動を行っているとし、大阪市が表現の不自由展かんさいに大阪市の施設利用拒否を求める事件である。大阪地裁は、施設利用拒否が認められる要件の一つである「重大な損害を避けるため緊急の必要」を当該事案の争点の一つに取り上げた。大阪地裁は「本件催物の開催が迫り、実際に開催された場合には街頭演説や街宣活動がより激化することが想定されるが、主催者が催物を平穏に行おうとしているのに、その催物の目的や主催者の思想、信条に反対する他のグループ等がこれを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことは憲法21条の趣旨に反すると解されるところ(平成7年判例参照)、街頭演説や街宣活動が激化したとしても、一定の音量を超えた街頭演説や街宣活動等に対しては、警察官や警察署長が暴騒音規制条例所定の命令を発することなどによって対応することが可能であること、警察により本件催物に対する適切な警備等がされること及び本件実行委員会との協議等を踏まえて本件センターの管理権を有する抗告人による安全確保に向けた対応も想定できることからすれば、これらによって防止又は回避することができない重大な危険が生ずることが具体的に予測されるとまではいえない。」と判示した。大阪高裁も地裁の立場を支持し、「主催者が平穏に行おうとしているのに、思想・信条に反対するグループが実力で阻止しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に施設利用を拒むのは憲法の趣旨に反する」と言及していた。

結論

 当該仮説の事例に関する憲法上の問題点を本論の指針とし、本論を展開することで問いを明らかにした。

 当該仮説の事例では、Y芸術団が平穏で静寂な平和芸術祭の公演を維持しようとするY芸術団の意志に反し、その講演内容に異を唱える観客の抗議激化を危惧した大阪市の公演を中止する行為は、Y芸術団の平和に関する思想・信条への否定的評価を理由としたものと考えられる。また、判例は「重大な損害を避けるため緊急の必要」を要件に施設利用拒否を行うことができると判示していることから、本仮説は現状そのような事情に至っていないものと考えられ、加えて一回目の公演を公開していることを鑑みるとA市の公演中断は憲法21条の趣旨に反するものと考えられる。また、裁判所に要請する思想・信条に関する表現の自由保護度合いが高いことから、当該行為は同法に抵触する可能性があり、違憲となる可能性がある。従って、本仮説の事例にはそのような憲法上の問題が存在すると結論付ける。

参考文献

プレステップ憲法.第3版.2022.駒村圭吾.弘文堂.180p

福井 健作.「日経XTREND」.『「表現の不自由展」騒動は違法? パブリックフォーラムと税金』.(2022.9.30アクセス)

URL(https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/skillup/00009/00077/

裁判所.「裁判例検索」.『下級裁裁判 裁判例速報』.(2022.10.02.アクセス)

URL(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/519/090519_hanrei.pdf)

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