無権代理行為が行われた場合における相手方の保護手段の種類、各々の特色および相互関係について説明していく。
⑴保護手段の種類
代理権が無い者が、いかにも代理権があるかのように振舞い契約などをする無権代理行為が行われた場合におけるその相手方の保護手段(無権代理人が代理権を持っていると信じて契約をした契約を白紙にするなど)は、相手方の催告権や取消権、相手方からの損害賠償請求、履行請求または損害賠償の請求、無権代理と相続、表見代理制度がある。
⑵催告
無権代理契約によって不安定な法理関係が生ずる。これによって最も不利益を受けるのは、契約の相手方である。そこで、この不安定な状態を解消する手段が、相手方にも与えられる。そこで、無権代理行為の相手方が、仮に無権代理人が代理人である場合にその代理権を授けた者である者(本人)に対し、相当の期間を定めて、その期間内に当該無権代理行為により取消になった契約を有効にする(追認)か否かを確答するよう請求することができる。この権利は、相手方が当該無権代理人であることを契約当時に知っていたか、または知っていないかに関わらず認められる。
⑶取消権
相手方は、不安定な法律関係を存続させることよりも、契約そのものをなかったものとすることを望むかもしれない。相手方のこのような希望を認めても、本人も無権代理人も困らない。そこで、無権代理による契約に納得できない場合には、本人の追認前であれば、相手方は契約を取り消すことができる。ただし、契約時に無権代理行為であったと知っていた場合には取消権は認められない。
⑷履行請求または損害賠償の請求
無権代理という事態が生じたのは、代理権がないのに代理人として契約をした者のせいである。そうすれば、この者に責任を負わせて、相手方の保護を図ることが妥当であると考えられる。そこで、本人の追認が得られない場合に、相手方は無権代理人に対して契約内容を実際に行ってくださいと請求すること(履行)や損害賠償請求ができる。ただし、相手方が無権代理人の代理権が無効であることなどに関して、相手方が知っておらずかつ知ることができた状況でない場合(善意無過失)にのみ、この請求をすることができる。また、無権代理人が制限行為能力者である場合には、無権代理人は責任を追及されない。
⑸無権代理と相続
無権代理人または本人が死亡し、ある者が無権代理人の本人の地位(資格)と無権代理人の地位(資格)をあわせもつことがある。このような場合に関し、判例は無権代理人が本人を相続した場合生前本人が相手方と契約した内容は有効となるとし、本人が無権代理権を単独相続した場合相手方は損害賠償のみを請求することができると示している。
⑹表見代理制度
本人が追認するか、無権代理人の履行責任が認められれば、法的には、相手方は履行を請求することができる。しかしながら、本人が追認するとは限らない。また、無権代理人に履行責任を負わせても、相手方が実際に(十分な)履行を得られる保証はない。そのため、相手方に現実に履行を得させるには、本人に契約の効果を強制的に引き受けさせることが望ましい。そこで、無権代理人に代理権があるかのような外観をしていて、相手方が無権代理人に代理権があると信じて取引してしまった場合、一定の条件を満たせば、代理権があるのと同等の責任が本人に生じるという制度である。その一定の条件とは、本人に何らかの責任があり、その代理行為により利益を得ようとしている、かつ、相手方が善意無過失であること。加えて、当該制度適用範囲は、無権代理人が相手方に詐欺等による意思表示(109条)や権利の範囲を超える行為(110条)、代理権消滅後の代理行為(112条)をすることに制限されているが(二つの条文を組み合わせて法律効果を主張できる重畳適用というものもある)、最高裁昭和45年7月28日第三小法廷判決を受けて、臼井豊氏が「この有機的結合を後押ししたのは、取引安全保護の観点からすでに判例が改正前の110条・112条の重畳適用の承認と登記申請の代行権限に関わる110条の「基本代理権」要件の緩和により表見代理の拡大を推進していたためと考えられる」と述べている通り、時代と共に当該制度適用範囲が拡大している。
⑺各々の相互関係
最後に各々の相互関係について述べる。まず、狭義の無権代理といわれる表見代理以外の無権代理行為は本人に帰属しないが、表見代理は無権代理のうち有権代理と同様に本人に効果の帰属をするものである。
無権代理行為を本人が追認拒絶した場合、相手方は契約の取消または表見代理の主張、無権代理人の責任追及(履行または損害賠償)をすることができる。ここで、表見代理不成立になった場合、相手方は契約の取消または無権代理人の請求の追及をすることができる。
無権代理行為について本人が何もしない場合は、相手方は契約の取消または催告、表見代理の主張、無権代理人の責任の追及をすることができる。ここで、相手方の催告に対して、本人は追認の確答または追認拒絶の確答、確答しないという場合分けができる。本人が確答をしないときは本人が追認拒絶したときと同様に、相手方は契約の取消または表見代理の主張、無権代理人の責任の追及ができる。
参考文献
潮見佳男・道垣内弘人編.『判例百選民法Ⅰ』.第8版.2018.有斐閣
佐久間毅一箸.『民法の基礎1 総則』.第5版.2020.有斐閣
大村敦志著.『新基本民法総則編』.第2版.第2版.2019.有斐閣
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