民法で規定している法律行為または意思表示の無効と取り消しについて説明する。その上で、両者の共通点および相違点について、その理由とあわせて説明する。
⑴無効
法律行為または意思表示が無効となる場合とは、公序良俗違反(民法90条では、「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」と規定している)、民法の条文に定められている決まりに反する契約など強行規定違反(社会規範として通用させその通りの規律を絶対に要求する法律規定はその規定の内容を絶対に通用させる必要があり、これと異なる契約がされていても、無効となる。)を行うこと、心裡留保(冗談や嘘で通謀することなく一方的になされた真意でない意思表示。)または虚偽の意思表示を相手方にしたとき、その内容が実現不可能であるとき、泥酔など意思能力に欠けている者(意思無能力)によるものであるとき。
⑵取消
法律行為または意思表示が取り消すことができる場合とは、法律行為または意思表示が錯誤(言い間違えや書き間違え、意味内容を誤解、意思表示をしようとする意思を誤解など、それらに基づいた意思表示)や詐欺(ただし、錯誤や詐欺の場合は当事者の状況等勘案し取消できない場合もある。)、強迫に基づくとき、正しい判断ができない者(制限行為能力者)がある一定の状況下で法律行為や意思表示をしたとき。そのある一定の状況下とは、例えば未成年者が親等(法定代理人)の同意なしに行った行為(単に相手方からお金を貰うことや借金が無くなるなどの単に権利を得または義務を免れる行為は除く。)
⑶共通点
無効と取消の共通点は、法律行為または意思表示の効力が最終的には発生しないという点である。無効は最初から効力が発生していないのだから誰との間にも法律行為または意思表示の効果が発生せず、取消は一旦法律行為または意思表示の効果が有効とされたが当事者がその契約を白紙に戻すことで、その効果は契約時にまで遡及し消滅するため、無効と同様に初めから効果が無かったものとみなされる。
⑷相違点
最後に無効と取消の相違点について三つ述べる。第一に、当事者が無効や取消を主張する相手の範囲は、無効か取消かで異なる。無効は最初から当然に効力が発生していないものだから、誰からでも法定期利益がある限り、誰に対しても主張できるが、取消は一旦法律行為または意思表示が有効とされるため、取消権者(詐欺や強迫によって取消す場合は、詐欺や強迫による意思表示をした当事者またはその代理人もしくは承継人のこと。)が、その契約の相手方に対して主張できる。第二に、無効や取消の効力を後から有効にできるか否かが、無効と有効で異なる。無効は最初から当然に効力が発生していないため、無効である法律行為または意思表示を後から有効にすることはできない。ただし、最高裁昭和37年8月10日第二小法廷判決を受け、佐久間毅氏は「民法119条ただし書の場合について、法的支障がなければ行為を当初から有効とする追認も当事者間では可能であると説かれている。」と述べている。取消は追認する前から有効だったのだから、「有効となる」とは「確定的に」有効となるという意味であり、制限行為能力者や詐欺・強迫の被害者などの取消権者が、その取り消した効力を後から行為の初めから有効にさせることができる。第三に、無効または取消を主張する権利に時効があるか否かについて無効と取消で異なる。無効は放置すれば有効になることは無いため、いつまでも無効の主張ができるが、取消は相手方が不安定な地位に置かれること、取引社会が不安定要因を抱え込むことを意味することから、時効など一定期間を経過することによって取消すことができる権利が消滅する。その一定の期間とは、未成年が成人になったときや錯誤から脱したとき、いわゆる追認をすることができるときから5年、行為の時から20年。
参考文献
潮見佳男・道垣内弘人編.『判例百選民法Ⅰ』.第8版.2018.有斐閣
佐久間毅一箸.『民法の基礎1 総則』.第5版.2020.有斐閣
大村敦志著.『新基本民法総則編』.第2版.第2版.2019.有斐閣
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