【学問】憲法①(法学)

学問

 2014年7月1日の「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」という閣議決定に関して、集団的自衛権の是非について判例および学説の立場から、集団的自衛権を認める必要があるのかについて、自説を展開する。

 国連憲章51条は、自衛権を国連加盟国の「固有の権利」として規定し、自衛権には以前より個別的自衛権と集団的自衛権があるとされてきた。個別的自衛権とは、「他国からの違法な侵害に対して自国の防衛のため必要な措置を単独でとる権利」、集団的自衛権とは、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を時刻が直接攻撃されていないにもかかわらず実力をもって阻止する権利」と解されている。日本政府は、個別的自衛権について、「憲法9条1項は、独立国家に固有の自衛権までも否定する趣旨のものではなく、自衛のための必要最小限度の武力を行使することは認められている」とする。これに対して、集団的自衛権については、「機能としては有しているが、その行使は自衛のための必要最小限の範囲を超えるから、憲法上、行使はできない」という解釈を取っていた(1981[昭和56]年5月29日政府答弁書)。

 学説でも様々な主張がなされている。まず、①国際法上の権利である自衛権を自国の憲法で放棄できないとする「自衛権留保説」。同説は⑴武力を行使することにより自衛する「武力による自衛権説」と、⑵非軍事的なもので自衛する「武力なき自衛権説」に分かれる。さらに、「武力による自衛説」は、(イ)自衛戦力を肯定する「自衛戦力肯定説」と、(ロ)自衛に必要な戦力未満の実力保持を認める「戦力未満の自衛力説」に分かれる。これに対して、自衛権を持つことは必然的に武力行使を伴うため、9条のもとでは自衛権が否定される「自衛権否定説」がある。これらの学説を前提として、①個別的自衛権・集団的自衛権ともに認める説、②個別的自衛権のみ認める説、③個別的自衛権・集団的自衛権ともに認めない説が主張されている。

 9条については判例で最高裁の立場が明確に示されていない。政府見解は、一九五九年十二月十六日の最高裁判所大法廷判決(以下「砂川判決」)で判示した「(国の)存立を全うするために必要な自衛のための措置」には集団的自衛権も含まれると解している。これに対しいくつかの学説は、高裁砂川判決について日本の自衛の措置として米国駐留を認めることの合憲性を判断したものにすぎないとし、加えて当判決は憲法がいわゆる自衛隊を編成して個別的自衛権を行使することの合憲性すら判断を留保しており、集団的自衛権の合憲性を認めたものだと言い難いという立場を示している。

 私は「戦力未満の自衛力説」を前提とした個別的自衛権のみを認める説の立場を取る。その理由は次の通りである。まず、憲法9条に「戦力保持は禁止である」と書かれていることから「戦力未満の自衛力説」が有力であると考える。加えて、個別的自衛権に関して憲法13条で「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」と定めていることから、国内の安全を確保するための自衛隊や自衛権が政府の行政活動として認められていると考えられる(憲法65条、73条)。つまり、個別的自衛権は憲法13条を根拠に正当化されていると考える。それに対し、集団的自衛権については、憲法上外国を防衛する規定が定められていないし、むしろ国際法で認められている集団的自衛権の行使は自国の憲法により否定している。また、外国の防衛を援助するための武力行使は、行政行為でも外交関係処理でもなく73条内閣の職権の範囲内ではなく、越権行為にあたる可能性がある。これらの理由から、現憲法において集団的自衛権は認められないと解し、それを認めた当該閣議決定は違憲行為であり、憲法に従って国家の運用を行う立憲主義に反する行為であると私は考える。

参考文献

小林節著『白熱講義!集団的自衛権』初版.KKベストセラーズ.2014.223頁。

小泉良幸・松本哲治・横大道聡編『憲法判例コレクション』有斐閣.2021.314頁。

清水雅彦著『9条改憲 48の論点』第1版.高文研.2019.115頁。

木村草太著『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』第1版.晶文社.2015.277頁。

国家安全保障会議決定『国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について』(参照2022-7-4)(https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/anpohosei.pdf)

内閣官房.『「平和安全法制」の概要』.(参照2022-7-4)(https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/gaiyou-heiwaanzenhousei.pdf)

藤井正希.「平和主義(憲法9条)の法解釈論」.『群馬大学社会情報学部研究論集』. 第 21 巻.(参照2022-7-26)

(https://gair.media.gunma-u.ac.jp/dspace/bitstream/10087/8180/1/fujii21_13-32.pdf)

衆議院.『「砂川判決」と集団的自衛権についての政府見解に関する質問主意書』.(参照2022.07.20)

(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a189271.htm)

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