本件は、医療法人の病院に外来受付等の事務に従事していた従業員が、勤務中に医療法人の理事長のセクシュアルハラスメント行為が不法行為に該当し、医療法人がセクハラ行為の是正について適切な対応をしなかったことが安全配慮義務違反に該当するとし、それぞれ損害賠償を求めた事件である。名古屋地裁岡崎支部は医療法人は安全配慮義務違反があると判断した(I医療法人事件.名古屋地裁岡崎支部.令5.1.16判決)。
安全配慮義務に関しては、医療法人は従業員から訴えがあった当時、就業規則においてセクハラ行為を行った場合の解雇に関する一般的な定めを規定し、職員からの苦情に対応、処理する機関として院内委員会を設置していた。
しかし判決では「本件従業員のセクハラの申し出を正式な苦情として処理し、院内委員会の審議に上程しておらず、院内委員会が本件従業員からの申し出に対して有効に機能したとは言いがたい」、「複数回にわたる訴えに対し、まずもって重要と思われるべき、被害者とされる者や関係者、加害者とされる者や関係者、加害者とされる者(理事長)に対する詳細な聞き取り調査などを行わず、理事長に対しては、セクハラ行為に気を付けて欲しいという極めて抽象的かつ中途半端な対応をするにとどまり組織としてセクハラの訴えがあった際の対応としては全く不十分であった」としている。
そして、一連の対応は「良好な職場環境を整備、維持すべき法的義務に反するということができ、医療法人は、本件従業員に対し、安全配慮義務違反がある」と断じている。セクハラ等の相談体制や調査体制を整備していても、実際の運用に適切性を欠いていれば大きな法的リスクを負うことを示した。
出典:厚生労働省公認.労政協労管ニュース4月号.2024.3頁。
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